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国内外の法人の代表者を務めていた個人(以下「甲」)が、「居住者」に該当するかどうかが争われた事案において、令和元年5月30日東京地裁i及び11月27日東京高裁ii判決は、納税者の生活の本拠はシンガポールであり、日本の「非居住者」に該当すると判示しました。

国は、最高裁への上告及び上告受理申立てを断念したため、高裁判決は確定しました。

 

所得税法上の「居住者」「非居住者」の定義

「居住者」とは、国内に住所を有しまたは現在まで引き続いて1年以上日本国内に居所を有する個人(所法2①三)をいい、「非居住者」とは居住者以外の個人をいいます(所法2①五)。

所得税法には住所の定義について規定はなく、民法第22条(各人の生活の本拠をその者の住所とする)を借用し、生活の本拠は客観的事実により判定するとされています(所基通2-1)。

裁判所が採用した居住者・非居住者の判定基準と認定した事実

本判決は、次のような生活の本拠の判定基準に関して、裁判所が認定した事実を基礎とするものです。「生活の本拠=住所」の法解釈(最高裁平23.2.18判決:武富士事件参照)が変更されたわけではありません。

①滞在日数及び住居:甲は、日本、アメリカ、シンガポールの3か国に定住できる居宅があり、年間滞在日数はおおむね100日前後で均衡していた。また、これら3か国以外にも、シンガポールを拠点としてインドネシア、中国、ヨーロッパ、中東、アフリカ等の国々に渡航していた。

 

②職業:甲は、日本法人2社、海外法人4社の代表者の地位にある。インドネシアに製造工場が3つ設置され、アメリカでは販売活動を行い、シンガポールでは各国への顧客獲得で販売地域を広げ、製品の生産量を増やすために中国に工場を設置して製品製造が行われている。甲は、内国法人の業務として、毎月1回の経営会議や年2回程度の株主総会・取締役会に出席していた。

 

③生計を一にする配偶者その他親族の居所:甲の配偶者及び次女は、日本居宅で居住。

 

④資産の所在:シンガポールに一部預金はあるものの、会社株式、居宅、自動車、預貯金等資産の多くは日本に所在。

 

⑤その他の事情:甲は、日本に住民登録をしたまま住民票の転出届は未提出。

東京高裁の判断

上記判定基準のうち③④⑤を重視すれば、甲は居住者に該当します。したがって、裁判所は②の職業を重視して、甲の生活の本拠をシンガポールと判定したものと考えられます。

甲は、①の事実関係のとおり、複数の国に滞在していましたが、シンガポールは各国、とりわけインドネシアへの渡航の拠点として利便性を有していました。そうだからこそ、定住できる体制の整った居宅をシンガポールに構えていたのです。

したがって、シンガポールをハブ(拠点)とする他国への短期渡航はシンガポール滞在と実質的に同一視することが、経済社会の実態に適合するとして居住地判定を行いました。この場合、甲は、シンガポール及び同国を拠点に渡航した国に年間4割程滞在していることとなり、日本国内における滞在日数と、シンガポールにおける滞在日数との間に有意な差を認めることはできません。

さらに、③④⑤の基準は、甲の生活の本拠が日本にあったことを積極的に基礎づけるものとはいえないとして、総合的な判定では、甲は「居住者」と該当するとは認められないと結論づけました。

 

ⅰ.平成28年(行ウ)第434号源泉所得税納税告知処分取消等請求事件及び平成28年(行ウ)第436号源泉所得税納税告知処分取消等請求事件

ⅱ.令和元年(⾏コ)第186号源泉所得税納税告知処分取消請求事件

 

本事案のような状況を避けるために、日星租税条約第4条2項にて、双方の締約国の居住者に該当する個人については、その人的及び経済的関係が最も密接な締約国(重要な利害関係の中心がある国)の居住者とみなし、権限のある当局の合意により解決することなどの原則を規定しています。

 

◆ 情 報 提 供 :太陽グラントソントン(グラント・ソントン 加盟事務所)

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